いよいよ開幕した2019/20シーズンのFリーグ。開幕戦の駒沢セントラルで行われた6試合のうち、最も注目を集めたのはオーシャンカップ決勝戦のリベンジマッチとなった名古屋オーシャンズvs湘南ベルマーレの一戦でした。
一週間前のオーシャンカップでは0-7と完敗し、かつ主力選手が怪我を負ってしまった湘南。それでも、開始直後から激しい気迫で名古屋を攻め立てそして名古屋はそれをガッチリと受けて立つ。たったひとつのミスが命取りになる。そんな緊迫した展開が20分以上続いた後半、そのたったひとつのミスを逃さなかった名古屋が先制し、そのまま押し切ります。
全身全霊を賭けて挑んだベルマーレでしたが、またも絶対王者の前に破れる結果となりました。
さて、そんな緊迫した試合展開のなかでひとつレフェリングに物議を醸す場面がありました。後半12分頃に5ファウルだった湘南の18.高溝選手がカウンターを受けかけた際に名古屋の15.吉川選手を抱きかかえるように止めたのです。
しかし、審判は両手を広げてプレーオンのサイン。こぼれ球を拾った名古屋の13.ラファ選手がゴールを狙いロングシュートを放ちましたが外れてしまい、名古屋に第2PKは与えれないまま高溝選手にイエローカードが掲示されました。
「えー?6つ目のファウルでアドバンテージって… 第2PKをもらうよりも流した方が有利な場面なんてそうそうなくない!?」
これが現地で観ていたぼくの率直な感想です。そう思ったひとは多かったらしく、ツイッターなどで一部の人たちが取り上げ論議を交わしていたところに「みんサル」が解説記事をあげてくれました。まだ試合翌日の昼過ぎのことです。素晴らしいレスポンス!
ただ、この記事は「6つ目のファウルでもアドバンテージが適用されれば第2PKにならないこともある」ことは解説してくれているのですが、「このファウルへのアドバンテージの適用は適切だったか」についてはちょっと検証が浅いような気がしています。そこでこの記事では、当時のより詳細な試合状況と競技規則を照らし合わせながら、もう少しだけ検証を深めてみたいと思います。
※この記事ではツイッター上で競技規則や試合状況について複数人で論議したことを整理して再構築しています。ツイッターでコメントを下さった方々ありがとうございました。
※この記事はフットサルのルールの理解を深めて観戦を楽しむことを目的としており、決して特定の選手や審判員を非難・攻撃することを意図してはおりません。
検証!Fリーグ2019 駒沢セントラル 名古屋vs湘南の6つ目のファウルはアドバンテージ?それとも第2PK!?
Abemaビデオで問題のプレーを再確認
みんサルの記事では「たとえ6つ目のファウルであっても、アドバンテージが狙えると判断されれば第2PKではなくプレーが続行される場合がある」ということはわかります。
ただ、当該のファウルがアドバンテージを取るほど名古屋に有利な状況だったかどうかを考えるには文字だけの描写では表現に限界があります。
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Abemaプレミアム会員やJ SPORTSデマンドに加入している方は見逃し配信でも確認ができます。この記事では無料配信期間が終わってしまった場合にも備えて、各選手の配置を再現しておきます。
①湘南・GKフィウーザの攻撃参加
場面は後半12分頃、1点ビハインドの湘南が5ファウルになった直後のシーン。追いかける湘南(青)はGK87.フィウーザ選手が攻撃参加し、左サイドの18.高溝選手にパス。
今回の主題からは外れますが、このときの名古屋(赤)の守備陣形が素晴らしいですね。13.ラファ選手はボールホルダーへプレッシャーを掛けながら右サイドでフリーになっている9.マルロン選手へのパスコースを絶妙に警戒しています。そして左の18.高溝選手へのパスが入った瞬間に15.吉川選手がそこへ猛プレス。
名古屋はフィウーザを上げた攻撃に対する守り方を周到に研究していたのかもしれません。
②名古屋・吉川選手のボール奪取
18.高溝選手がパスを受けるまさにその瞬間を狙って名古屋の15.吉川選手が猛然とチャージを仕掛けこのボールを奪います。さらに身体を入れ替えることにも成功。この時点で名古屋に大きなチャンスになっていたのは間違いありません。
③湘南・高溝選手のファウル
抜かれたら大ピンチとなる18.高溝選手は後ろから15.吉川選手に抱きつくようにしてドリブルを阻止します。もちろんこれはファウルですが、このこぼれ球が13.ラファ選手に渡ったため審判は両手を広げてプレー続行のサイン。
ファウルがあったのはまだ名古屋陣内、名古屋ゴールまで約25mというところ。ラファ選手がボールを受け取ったのも名古屋陣内、ゴールまで約21mとういうところです。フィウーザ選手はパスを出した直後に危険を察知して後退しており、このときすでに第2PKポイントのあたりまで戻っていました。
18.高溝選手にはイエローカードが提示されましたが、名古屋に第2PKは与えられませんでした。
これもまた主題から外れますが、今回高溝選手が犯したようなファウルを「プロフェッショナルファウル」とか「戦略的ファウル」と呼んだりします。絶対のピンチで相手のユニフォームを引っ張ったり抱きついたりして、相手に怪我のリスクなくカード覚悟でプレーを止める。もちろん褒められた行為ではありませんが、勝つためにはそういう選択もあると欧州などでは当たり前に受け入られている文化です。
アドバンテージの判定基準は状況によって変わる!?
通常であれば、このシーンで審判がアドバンテージを取ったことに違和を唱えるひとは少なかったでしょう。ゴールから25mも離れた場所での直接フリーキックよりも、そのまま13.ラファ選手がGKと1対1になる状況の方が名古屋にとって有利だと思えます。
しかしこの時すでに湘南は5ファウルになっていました。GKとは確かに1対1ではありますが、まだ決定的な得点のチャンスとは言い難い気もするこの状況は、はたして第2PKを得るよりも名古屋に有利な状況だったのでしょうか?
「だけど、アドバンテージの判断基準が累積ファウルの数で変わってしまってもいいの?」
そう思う方もいるかもしれません。「基準」というとなんとなく、常に変わらない絶対的なものであるべきというイメージがあります。
しかし、アドバンテージの本質的な意味は反則を受けた側が有利になるかどうかです。JFAのフットサル競技規則2018/19 の中の「フットサル競技規則の解釈と審判員のためのガイドライン」第5条にはアドバンテージについて以下のように書かれています。
主審・第 2 審判は、アドバンテージを適用するのかプレーを停止するのか判断するうえで、次の状況を考慮する。
⚪︎ 反則の重大さ。違反が退場に値する場合、違反直後に得点の機会がない限り、主審・第 2 審判はプレーを停止し、競技者を退場させなければならない。
⚪︎ 反則が犯された場所。相手競技者のゴールに近ければ近いほど、アドバンテージはより効果的になる。
⚪︎ 相手競技者のゴールに向かって、素早く、また大きなチャンスとなる攻撃ができる機
会にあるか。
⚪︎ 違反直後に得点の機会がない限り、犯された違反がチームの 6 つ目またはそれ以上の累積ファウルであってはならない。
⚪︎ 試合の状況
JFA 「フットサル競技規則2018/2019」p.94より引用。
つまり競技規則のガイドラインに「アドバンテージを取るかどうかの基準は時と場合によって変わるよ」と書いてあるのです。このうち4つ目のポイントの言い方がちょっと小難しいですが、言い換えると「6つ目以上の累積ファウルでアドバンテージを判断するのは違反の直後に得点機会がある場合に限る」ということです。
これは累積ファウルの数によって、アドバンテージを取るかどうかの判断基準が明確に変わることを意味します。「素早く攻撃できる機会」と「得点の機会」を区別して図にすると、下記のようになるでしょう。
それでは、ファウルの後にラファ選手がGKと1対1になった状況が「得点の機会」に相当したのか?このジャッジの妥当性の検証のポイントはそこにありそうです。
本当に決定機だったなら高溝選手は警告ではなく退場ではないのか?
FUT-LOGとしては今回のケースについて「湘南のファウル直後に名古屋には“素早く攻撃に移る機会”はあったが“得点の機会”があったとは考えにくい。よってアドバンテージではなく第2PKが妥当だった」と考えます。
©︎いらすとや
その根拠の1つが、ファウルを犯した高溝選手に提示されたのがレッドカードではなくイエローカードだったことです。公式記録によると警告理由は「C1:反スポーツ行為」となっています。
アドバンテージを取る基準は、6つ目のファウルの場合はファウル直後に得点の機会があった場合に限られるはずで、その得点の機会をファウルで止めたのなら高溝選手には「S5:決定機阻止」でレッドカードが提示されるべきだったのではないでしょうか?
このことからも、審判がこのファウル直後の状況を「得点の機会」ではなく「素早く攻撃に移る機会」と捉えており、5ファウルの状況にもかかわらずアドバンテージの判断をしてしまったのではないかと予想することができます。
他の人たちの意見も紹介してみます
ぼく自身は審判員資格を持っていません。なのでこの記事に書いた意見が正しいかどうか絶対の自信があるわけではありません。
一応、ロジックとしては破綻がないよう注意深く考えたつもりではありますが「いやいや、これはアドバンテージで妥当でしょ」という意見もあるかと思います。ツイッターでコメントを頂いた方たちの意見も引用し掲載させていただきます(ご本人には許可を頂いています)
得点の機会の判断も理解はできる
アドバンテージは妥当。警告も妥当。
決定機阻止≠得点機会の阻止
また、決定機阻止は得点の機会の阻止よりもさらに細かいシーンを表現しており、イコールじゃないのではないかというご指摘も頂いています。
決定機阻止とは、そのファウルを犯さなければ明らかにゴールが決まっていたと判断されるような場合を指し「退場させるほどの“決定機”ではないけれど、6つ目のファウルでもアドバンテージを適用するくらいの“得点の機会”というものがある」ということですね。
このケースは第2PKが妥当だったというこの記事の意見の、大きな根拠のひとつが崩れてしまいました😅
このほかにもご意見のある方はブログのコメント欄やお問い合わせフォーム。ツイッターへのリプライやDMなどでお寄せください。
【最後に】審判ってむずかしいよね…
繰り返しになりますが、この記事を書いた目的はフットサルのルールの理解を深めて観戦を楽しむことにあって、決して特定の選手や審判員を非難・攻撃することを意図してはおりません。
©︎いらすとや
この判断は違ったんじゃないかな?と、あとから動画を一時停止しながらじっくり見たぼくは思いましたが、審判員の方は高溝選手と吉川選手の攻防から目を逸らさず、かつ吉川選手が倒された瞬間には笛を吹くか流すかの判断をしています。おそらくはこの時にフィウーザ選手がどれだけ戻っていたかは把握できていなかったでしょう。
このように、ぼくたちも時には試合状況と審判の判断をトレースしてみることでその大変さや難しさ、審判の方達の凄さを実感するとより一層フットサル観戦を楽しめるのではないでしょうか。
参考記事
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